2010/03/02

直球勝負「インビクタス」


クリント・イーストウッド監督の新作「インビクタス/負けざる者たち」を観てきました。

実は映画館で観るのはやめて、DVDが出てから家でじっくり観ようと思っていた映画です。
20世紀の尊敬する人を3人挙げよと問われたら、”マハトマ・ガンジーとマーチン・ルーサー・キングとネルソン・マンデラ”と即答するんですが、特にマンデラはその活動などをオンタイムで知っているだけに思い入れがあります。
それだけに、この「インビクタス」も予告編を観ただけで胸がいっぱいになってしまって、もし映画館で全編を観たら多分涙が止まらないだろう、それなら家でゆっくり観た方が。と考えていました。

で、今日3月1日、つまり映画の日なので何か映画でも観て帰ろうと六本木バージンへ行ったんですよ。
ところが天気は雨模様だし、最終上映の終わる時間が終電ギリギリ(ボクには関係ないですが)ということで、この「インビクタス」が予想以上に空いていまして、目出度く映画館で鑑賞。

そもそも1995年ラグビーワールドカップの南アフリカ大会で主催国である南アフリカが優勝したことも、それに先立ちアパルトヘイトが撤廃され、テロリストとして28年間も不当に投獄されていたネルソン・マンデラが大統領になったことも紛れない実話。
それをモーガン・フリーマンが映画化を企画し、クリント・イーストウッドの監督でこの映画が誕生したワケですが、なんといっても実話自体が20世紀で最も感動的なものなので、正直イーストウッドの出番なし。下手に演出する必要もなく、そのまま再現すれば良いワケですから。まぁそれは言い過ぎで、ラグビーの試合シーン、マンデラとラグビーチームのキャプテンであるフランソワ・ピナールとの禅問答シーンなど、イーストウッド映画の最良の部分もちゃんとあります。

映画は1990年、ネルソン・マンデラがポルスモア刑務所から解放され車列を組んで送られるシーンから。
こっち側では緑の芝生の上でラグビーの練習をする白人たち。あっち側には土のグラウンドでサッカーに興じる子どもたち。その真ん中の道路をネルソン・マンデラの車列が通過していくんだけど、まさに1990年の、アパルトヘイト撤廃前夜の南アフリカの状況を一発で表すシーン。もうこれだけでこの映画がどんな物語を描いたものかが判り、そこでもう涙腺が。

前半はいかにネルソン・マンデラが人心を掌握し、分裂しかかった国家の融合のシンボルとしてラグビーチームを位置づけていくか。
もうネルソン・マンデラについては語りたいことは山ほどあるし、もし本気でそれを映画にしたらとんでもなく長く退屈で素晴らしいものになるはず。それはイーストウッドも判っているので、ここでは敢えて描かず、あくまでラグビーワールドカップに絞っている。この取捨選択がさすがイーストウッドだと思う。
でも、この前半部が感動的で涙腺を刺激するシーンが多い。素晴らしい。

全部で2時間半の映画だが、後半1時間はワールドカップの試合。
アメリカ人であるイーストウッドにラグビーが描けるか不安はあったが問題ナシ。これほどラグビーの肉体性を描いた映画もなかったかもしれない。
マット・デイモンがキャプテンのフランソワ・ピナールを演じていて、最初はちょっと心細いキャプテンなんだけど、映画の中で徐々に自身のキャプテンとしての役割、南アフリカの歴史を作る上での役割に自覚的になっていく過程をものすごくよく演じていて、これもまた素晴らしい。
オールブラックスとの決勝戦の結果は・・・実話なのでみんな知ってるから書かない(笑

後半は普通にスポーツ根性映画なので涙腺は落ち着いていたが、エンドロールで当時の実写が出てくるとやはりもう涙が止まりませんでしたね。でも他の観客も普通に泣いていたので、これはいくら泣いても恥ずかしく無いです。
アパルトヘイトがなんだったのか、ネルソン・マンデラとは何者かを知っている人はこの映画を観て思い切り感動し泣いて構わないです。20世紀で最も感動的な物語の一つなんだから。
その後の南アフリカも決して平穏な歴史ではないし、アパルトヘイトの傷跡も決して癒えてはいないし、治安がどうのというネガティブな話もあるけど、そうシニカルに構えず素直に観たいですね。イーストウッドもまさに直球で勝負してきている訳だし。
なので映画としては至極真っ当に「普通」。派手なCGもアクションもセックスも暴力も死もなし。あるのは愛と憎悪だけ。でもエモーションはたっぷり。普通に素晴らしい映画でした。

この物語から15年、今年はラグビーより遥かに大規模なサッカーのワールドカップが南アフリカで開催されます。
残念ながらグループ運に恵まれず、南アフリカが決勝トーナメントに進出する可能性は低い(でも日本がベスト4に進出する可能性よりはずっと高い)のですが、でも南アフリカチームがどこまで頑張ってくれるか、密かに応援したいと思います。