The Last Princess


黒澤明の最高傑作「隠し砦の三悪人」のリメイク版、「隠し砦の三悪人:The Last Princess」を観た。
実家のある上田市で開催中の「うえだ城下町映画祭」での上映プログラムの一つ。上田市内で一部の撮影が行われているので。

黒澤明のオリジナル版は泣く子も黙る傑作だし、ルーカス大先生がスターウォーズでパクった凸凹コンビにお姫様を知らぬ者はいない。観客がほぼ全員オリジナルを知っているという前提で撮らないといけないので監督も大変だよなぁ(笑

というわけで、好意的にみれば、オリジナル版から借用したのは一部のキャラクターと前半部のストーリーだけ。あとはリメイクならではの新解釈で撮ってみたヨーダもといようだ。

その参考にしたと思われるのが「スターウォーズ 新たなる希望」。なんと、このリメイク版にはダース・ベイダーが登場する。戦国の世にベイダー卿が!? そう、見れば一目瞭然、ベイダー卿以外の何者でもない。笑っちゃうくらい。
しかも、オリジナル版では田所兵衛だったキャラがベイダー卿。

この辺りで新脚本家と監督の力量に疑問符が付き始める。

オリジナルで非常に重要なキャラであり、あの名台詞「裏切り、御免!」そして真壁六郎太との槍の大立ち回りが印象深い田所兵衛が出てこない。そのキャラを悪の権化たるベイダー卿に模すとは。しかも、この「裏切り御免」のセリフは別キャラが口にしているではないか。
もしかしたら、この製作スタッフ達はオリジナルを1回しか観てないか、それ以上観たとしてもストーリーしか理解できなかったのではないのか?
田所兵衛が劇中外で果たした役割を理解できなかったのではないのか?

まぁそんなワケで、リメイク版では最初の1時間でオリジナル版のストーリーにケリを付け、残りは独自の物語と映像で暴走しはじめる。ハリウッドを意識したと言ってるらしいが、そりゃ誇大妄想というものだろう。
まぁスピード感もあるし、映像もシャープだし、2008年の娯楽映画としてみればとりたててケチを付けるものではないと思う。

役者にしても、阿部寛はでかくて強くてタフな真壁六郎太で違和感はない。ただ馬にまたがり刀を大上段に構え敵を追う例の座り小便しそうなほど素晴らしいシーンの再現はなし。余計な演出されちゃったからなぁ。

太平(千秋実)と又七(藤原釜足)の凸凹コンビはリメイク版では堂々の主役。
しかし藤原釜足の貧相でずる賢こい百姓イメージはまさにピッタリだったと改めて思う。あのように戦国百姓や帝国陸軍兵を違和感なく具現化できるような役者は現代日本には存在しないのだからないものねだりは出来ない。

オリジナル版での雪姫はいかにも高貴な生まれらしい立ち振る舞い、それに見合った強い意志が読み取れる顔つきなど、まさにパーフェクトだったが、あのような女性も現代では絶滅してしまったのか。今回の女優さんも頑張ったと思うが、どうみても戦国時代のお姫様には見えない。そもそもおっぱいが大き過ぎるって(笑

という感じで、あまりポジティブな評価はできないな。
オリジナルがあれという期待感に対してはちょっと残念。こっそりと、後で「アレは黒澤のリメイクだよ。ほら、あそこがこうで、あいつがあれで」とマニア間で囁かれる程度のリメイクにしておけばよかったのに。
ただ役者に関しては現代ではこれが精一杯だと割り切れる面もあるが、監督と脚本屋にはついてはハッキリ駄目だと言っておきたい。

たとえば後半の薄っぺらな社会的メッセージとか歴史観とかなんとかならんのかね?
我々プロレタリアートとしてもあまり共感できるようなものではなかったぞ(笑
「七人の侍」では志村喬の最後のたった一言で表現できたことを延々と臭い描写を重ねるとは。

そして海岸でのラストシーン。これが決定的だった。
さっきまでオーバーヘッド近い波がガンガンとブレークしていたのに、カットが切り替わった途端に波のブレイクする場所が変わりサイズも膝〜腰になってる!!
しかも干満の様子もおかしい。3カットからなるシーンなんだけど、全部のカットで干満の状態が違う。
つまり、各カット間には明らかに大きな時間差があるということが一瞬にして子供にでも判ってしまう。
ラストシーンというとても大事なシーンであるにもかかわらずこの致命的ミスはなによ!

要するにこいつらは、海というのは1時間も違えば様相が一変するという、映像作家であれば誰でも知ってる常識を知らない素人監督モドキだってことだ。
ここら辺の素人臭さというか未熟さがこの映画に付きまとう違和感の原因だったのだなということが最後の最後でようやく判った。

「椿三十郎」はプロの森田芳光が黒澤明の脚本をそのまま使ったらしいので、念のためそっちも観てみようか。ちゃんとプロとしての仕事はしてると思うぞ。
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