Burn After Reading

これは予告編に完全に騙された映画。

コーエン兄弟のブラピをフィーチャーしたライトなコメディ・・・と思って観に行ったら全く違いました。
まぁ意外な方向に騙されたので全然オーケーだったんですが、ブラピを期待して観に行った人は狐につままれた気持ちでしょうね。本気で予告編に騙されたと怒っちゃうかもしれない。

実体はCIA(と米国)の非情さと米国エスタブリッシュメントの間抜け加減を皮肉る、シニカルでブラックなポリティカルコメディ。
なんと言ってもエンドロールで流れるのはThe Fugsの"CIA Man"。
これが"Secret Agent Man"だったりするとピントがズレちゃうだろうけど、敢えてThe Fugsのこの曲を使うことで映画のテーマを観客に念押ししたんでしょう。

ブラピは単細胞の筋肉バカ役でこういうの得意なんですよね、昔から。40代半ばにして未だにこんな演技をすることには本当に感心してしまいます。映画が好きなんですね。

でも主役はブラピじゃなくてジョージ・クルーニーとジョン・マルコヴィッチ。実質ジョージ・クルーニーかな。

彼の役はセックスと健康と世間体に取り憑かれたような連邦保安官。ほとんど地で演技できたのが良かった(笑
健康フォービアでヒマさえあればジョギングし、トレーニング機器をデートに持参するし、頭の中はセックスばかりで出会い系サイトを使うまくりハメまくり、相手からさらに深い関係を求められればのらりくらりとかわし、つまり米国のある種の人々をシンボライズしているワケですね。

ジョン・マルコヴィッチはアル中で引退させられたCIA分析官。
辞めた後は暴露本でも書いて糊口を凌ぐかと言っているけど、旦那そういうのは在職中に書いておくもんですぜ。
エスピオナージ小説の世界では、CIAを辞める職員はみんな引退後に備えた身の安全の保険として何らかの機密情報をこっそり持ち出しているものですよ。小説の世界では(笑
暴露本なんかは在職中に書いて知り合いのジャーナリストとか出版社に開封厳禁で送っておく。これ基本。
そうじゃないと口封じに殺されたりロシアの陰謀にハメられて大変なことになるんですから、小説の世界では(笑
CIAの分析官のくせして、そういう諜報戦の基本を知らないのかなぁ〜!?

ジョン・マルコヴィッチの奥さん役はティルダ・スィントン。すっかりハリウッド映画の常連になって喜ばしい限り。
もう文句の付けようがないです。浮気相手(ジョージ・クルーニー)の奥さんから「冷たくて尊大な女」と言われちゃいますが、まあその通りの外見ですけど、それのどこが悪い! すっかり贔屓の引き倒しですが、この映画を観に行った最大の動機でもあるし、これからもどんなヘボ映画でも我らがティルダが出る限りボクは観に行きますね。

もう一人、扁平乳と巨尻とメタボ腹が気になって全身整形を願望するスポーツジムのインストラクーがフランシス・マクドーマンド。コーエン映画の常連というかジョエル兄の奥さん。
彼女の変身美への欲望、身近の愛に気付かぬ鈍感さ。これもある種の米国女性をシンボライズしてるんですね。
で、この映画のストーリーをワケ分からん方向へ進めぐちゃぐちゃにしていくのが彼女の飽くなき整形願望。そのために周囲で何人も人が死にてんやわんやの大騒ぎになるんですよ。ある意味この映画の影の主役。

まぁこんな登場人物達が出てきてぐちゃぐちゃな話が展開していくのですが、全作「ノー・カントリー」の緊張感とはうって変わって、ゆるゆるとした映像でストーリーが展開されていきます。ところどころコーエン兄弟らしい抜けた笑いどころが出てくるのはいつも通り。

正直観る人を選ぶ映画ですね。
「コメディ(Comedy)」と「ファース(Farce)」の区別が付かない人には面白くないと思います。
でも良質な「ポリティカルコメディ」として観れればかなり面白い映画だと思います。
「ノー・カントリー」でアメリカの現実をシリアスに救いなく描いたのとは対極の方法でアメリカを描いたのですね。
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