The Wrestler


ミッキー・ローク主演の「ザ・レスラー」を観てきた。

平日夜の日比谷。なんとか時間をやりくりして出かけたのは、早く観ないと終わっちゃうかもと思ったから。
先週末から公開は始まっているけど、なにせ題材がプロレスだし、主演は憶えている人にはもはや面影もなく、若い人は全然知らないだろうミッキー・ローク。派手なCGがある訳ではないし、アクションはたっぷりあるけどあれをアクションと捉える人は皆無だろうし、ひっそり上映開始、誰も知らぬ間に公開終了というパターンを予想していたので。

しかし、日比谷シャンテほぼ満員。しかも自分も含めてオッサンばっかり。ここは日比谷なのか? それとも後楽園? という感じ。
ボクは決してプロレスファンでもマニアでもないが、大相撲とかプロレスといった一種フリークスたちが主役を務める非日常感漂う雰囲気が好きだ。
今でもツェッペリンの「移民の歌」を聴けば大好きだったキング・コング・ブルーザー・ブロディの勇姿が目に浮かぶ(筋書きがあるのは判っていてもその筋書きを過剰に演出する彼の暴走振りには心躍らせたものだ)し、役得を最大限に使わせてもらって通った国技館の目前で繰り広げられるE=1/2(m*v*v)のぶつかり合いを必死に凝視していたものだ(立ち会いは重い相撲取りよりスピードのある方が強い。そして勝負はあっという間に決まる。毎秒30コマしか表示できないテレビでは決して見えない世界があるし、リプレイなどないので真剣に観ていないと何がなんだか判らないうちに勝負が決している)。
まぁそいう過剰な非日常の世界、今はいろんな格闘技があるし、そもそも通っているジムでは武藤敬司などのプロレスラーが隣でダンベル上げてたりするし、トレーナーからK-1のトレーニングを勧められたりするし、それより住んでるマンションのすぐ対面にはプロレス団体の事務所があったりであまりに間近で見慣れてしまったが(笑

そしてプロレス映画の最高峰はといえば、ボク的にはロバート・アルドリッチの遺作「カリフォルニア・ドールズ」。というのは昨日まで。今日からはこの「ザ・レスラー」である。
「カリフォルニア・ドールズ」は売れない女子プロタッグチームと人生に敗れたようなマネージャー(ピーター・フォーク)が場末サーキットを回りながらプロモーターと寝たりミミ萩原(!)と闘ったりしながら最初で最後で最大のチャンスに賭けるという一種のロードムービーで、アルドリッチの遺作という点を差し引いても傑作、プロレス映画でなくても傑作なんだけど、それよっかこの「ザ・レスラー」の方がよっぽどスゴい。

なんか支離滅裂な文章のような気がするが、それほど見終わった後まで興奮する内容だった。
1980年代に頂点を極め、90年代は落ち込んで、21世紀にはどさ回りのプロレスで糊口をしのぐプロレスラーのランディ・ロビンソン。これが演ずるミッキー・ロークの人生にそのまま重なる上に、その名演もあって「Resurrection of Mickey Rourke(ミッキー・ロークの復活)」と称され米本国では大ヒットしたが、ミッキー・ローク云々を置いといても素晴しい。
ランディは身体はボロボロ。普通の奴だったら、やってらんねぇよなーと思いながらも食うためにフリークス商売を続けるものなんだろうが、彼はプロレス原理主義者。仲間たちと肉体をぶつけ合い、観客を興奮させることが彼の人生そのものなので、どこかで折り合いを付けてなどという小賢しい生き方はできない。
感情の出し方もガキのまま。長年放ったらかしの一人娘とやっと和解できそうな雰囲気になるも、グルーピーとワイルドなパーティー(コークをキメて婦人用トイレで一戦、さらに朝まで)をしてしまい、またも娘との約束を破り絶縁を言い渡されるし、想いを寄せるストリッパーにも上手くそれを伝えられない。

要するにダメ男。
映画には「ダメ男映画」というジャンルがあって、昔のミッキー・ロークはそのジャンルのスターだったんだけど俺はダメじゃないと思った辺りからおかしくなったよね。
この映画も「ダメ男映画」としても最高に近いと思うのは、やはりランディのダメっぷりが際立っているから。
でもランディのダメというのは一般社会の常識や人としてのあり方を基準にしてのダメであって、リングに立つスターレスラーとしての基準で言えば最高のレスラー。

心臓発作を起こし、心臓バイパス手術を受け、一度は引退を決意し社会との折り合いをつけようとするが、それすらも上手くこなせないランディ。
もうこの辺りからみんな涙ちょちょぎれですよ。ランディは俺だと...
周囲の人間たちとは上手くやれない、でも素の自分を受け入れてくれる最高の仲間たちはいる。
愛する人間はいる、でもリングに立つ自分を愛してくれるのは観客だけ。
普通の世界に対する違和感。
こういうのってロック的な世界観そのものでもある。だからこそブルース・スプリングスティーンもとっておきの名曲を提供してくれたんだろう。

最後は20年前、栄光の頂点にいた頃の歴史的勝負を同じ相手と再現しようとする心臓手術上がりのランディ。
例のストリッパーの「私がいる!」の言葉を振り切り自分の居るべき場所...リングへ上がるランディ。
ラストの素晴しさも筆舌に尽くし難いものがあります。これほど感動したラストシーンは「レポマン」以来かもしれない。

いやぁしかし人間としてあるべき姿を描いた本当にスゴい映画でした。
そうそう、悪意ある人間が一人も出てこないというのも素晴しい。

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